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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10867号 判決 1982年12月06日

原告

株式会社タイトー

右訴訟代理人

柳井義郎

被告

株式会社アイ・エヌ・ジ・エンタープライゼズ

被告

渡辺鉄男

被告ら訴訟代理人

田山勝久

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五四万円及びこれに対する昭和五四年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告が昭和五四年八月中旬以降販売又は賃貸しているテレビ型ゲームマシン「スペース・インベーダー・パートーⅡ」(以下、「本件機械」という。)は、マイクロ・コンピューター・システムを利用した影像再生装置によつて、その受像機面上に映し出される影像を主体とし、遊戯者が一定の操作をすることによつて競技を楽しむテレビ型と称するゲームマシンの一種で、そのゲームの内容(影像とその変化の形態を含む。以下、「本件ゲームの内容」という。)は、別冊説明書記載のとおりであるが、本件ゲームの内容は、記号語(アッセンブリ言語)を用いて表示されたソフトウエア・プログラム(以下、「本件プログラム」という。)によつて表現されており、本件機械のコンピューター・システムの記憶装置(ROM、以下、この種の記憶装置を「ROM」という。)には、本件プログラムが記号語を機械語に変換した上電気信号の形で収納されている(この機械語に変換された本件プログラムを、以下、「本件オブジェクトプログラム」という。)。

2  本件プログラムは、著作物に当たる。

(一) 一般に、コンピューター・システムにおけるソフトウエア・プログラムは、コンピューターが行うべき仕事の内容を定め、これを完成させるため、これによつて生ずる問題を細分化して分析し、それぞれについての解法を発見し、その目的を実現するについていくつかの命令に関する情報及びその他の情報を組合せて作成されるもので、その作成には、電子工学等の基礎的知識を前提とする論理的思考を必要とし、また、右解法もコンピューター・システムにおいて出力(アウトプット)される同一の結果について、作成者により種々のものが存在可能なものであるから、解法はその発見者の創作的な思考の内容をなすもので、その表現である前記情報の組合せ方法に作成者の学術思想が表現され、その組合せによる表現は、プログラム作成者により個性的な相違があるものである。また、それを表現するために使われる記号語は、コンピューターに対する命令の手段であると同時に、第三者に対しても伝達可能である点で言語と同一の機能を有する。

本件プログラムも、基本的に右の各過程を経て作成されたものである。

(二) 本件プログラムは、「ゲーム」に関するものであるが、「ゲーム」とは、それ自体のうちに目的を持ちながらルールに従つて一定の時空の限界内で完了する自由で任意な行動あるいは活動で、人間に喜びと楽しみを与えるものとして、文化現象の一つの表現形態で、人間社会における価値ある存在と解することができる。そして、本件プログラムは、本件ゲームの内容をテレビ型ゲームマシンの受像機面上に映し出すことを目的とする各種映像及び命令に関する情報の集大成であり、そこに用いられている記号語(アッセンブリ言語)は、コンピューターに対する命令の手段であると同時に、第三者に対しその意味内容を伝達することが可能であるという点で言語と同一の機能を有し、本件プログラムは、このような記号語によつて作成者の思想を客観的に表現し、かつ、既存物を模倣することなく創作されたものであるから、学術の範囲に属する著作物に当たる。

3  本件プログラムは、訴外パシフィック工業株式会社の発意に基づき、かつ、その名義の下に公表する意図の下に、その業務に従事する技術者が、昭和五四年六月職務上作成した著作物で、右会社がその著作権を有していたが、原告は、同年七月三一日、同会社から右著作権の譲渡を受けた。

4(一)  被告会社は、顧客から注文を受け、本件ゲームの内容とは別のゲームの内容を映し出すゲームマシンのコンピューター・システムの基板を取り外し、これを訴外電商サービス又は同株式会社セイコー製作所に持ち込んで、右基板に取り付けられたROM又は必要に応じて追加したROMに本件オブジェクトプログラムを収納させ、この基板を顧客のゲームマシンに再び取り付けることによつて、当該テレビ型ゲームマシンの受像機面上に本件ゲームの内容を映し出されるように改造した。

(二)  被告会社の依頼により訴外電商サービスらが行つた本件オブジェクトプログラムの右収納行為は、被告会社自身の行つた本件プログラムの複製行為に該当する。けだし、本件オブジェクトプログラムは、本件プログラムの記号語を機械語に変換したものであるが、右変換は開発用コンピューター等を用いて機械的に行われ、そこに何ら別の著作物たるプログラムを創作する行為は介在しないのであるから、本件オブジェクトプログラムは本件プログラムの複製物にすぎず、本件オブジェクトプログラムの右収納行為は本件プログラムの複製物から更に複製物を作出したことに当たるからである。

仮に、右収納行為が被告会社の複製行為に当たらないとしても、被告会社の右改造行為は、訴外電商サービスらの複製権侵害行為によつて作成された物を頒布する行為に該当する。

そして、被告渡辺は、被告会社代表者として、本件オブジェクトプログラムの右収納行為が他人の著作物の複製行為に当たることを知り、又は過失により知らないで右収納行為をし、あるいは、訴外電商サービスらの本件プログラムの収納行為が第三者の複製権の侵害に当たることを知りながら右頒布行為に当たつたものであり、いずれにしても被告らは、不真正連帯の関係で、右不法行為によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

5  被告会社は、昭和五四年九月上旬から同年一〇月末日までの間に合計一〇〇台以上の右改造行為をし、これにより一台当たり五万円前後の収入をあげているが、利益はそのうち二万円を下らない。したがつて、被告会社が右侵害行為のうち得た利益の額は少なくとも二〇〇万円であり、原告は、これと同額の損害を被つたものと推定される。

6  よつて、原告は、被告ら各自に対し、右損害金二〇〇万円とこれに対する不法行為の日の後である昭和五四年一一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2(一)のうち、記号語が第三者に対して伝達可能である点で言語と同一の機能を有すること及び本件プログラムが原告主張の過程で作成されたことは否認し、その余の事実は認める。同(二)のうち、「ゲーム」が人間社会における価値ある存在であることは認めるが、その余の事実は否認する。本件プログラムに使用されている記号語は人間に理解しうるものではなく、それ自件客観的に思想を表現するものと解することはできないから、本件プログラムは、思想又は感情を創作的に表現したものではなく、著作物に当たらない。また、本件プログラムは、著作権法第一〇条第一項各号に著作物として例示されているもののいずれにも属しないから、著作物ということはできない。

3  同3の事実は知らない。

4  同4(一)の事実は認める。同(二)のうち、被告渡辺が被告会社の代表取締役であることは認め、その余の事実は否認する。被告らは、本件プログラムが著作物であり、その複製に原告の許諾が必要であることを当時知らなかつた。被告らの業界においては、ゲームマシンのプログラムの内容を他のゲームマシンのROMに収納する場合、製作者の許諾を得ないのが通例である。

5  同5の事実は否認する。被告会社が関与した改造台数は、一六台であり、これにより得た利益は一台当たり一万円前後にすぎない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二右争いのない事実と<証拠>によれば、本件プログラムは、本件ゲームの内容を本件機械の受像機面上に映し出すことを目的とするものであつて、本件ゲームの内容は、従前原告が販売していたテレビ型ゲームマシン・スペース・インベーダーのゲーム内容を改良したものではあるが、これを複雑化した独自の新規なゲームであり、本件プログラムも右ゲームのため従前のゲーム用のソフトウエア・プログラムとは別個独立に新たに作成されたものであること、本件プログラムは、まず、受像機面上に表現されるインベーダー等種々の影像並びにその数、大きさ、配列、順序、ミサイルの飛行速度、ビーム砲基地の大きさ、間隔、ビーム砲の大きさ、運動経路等の決定(仕事の分析)、次いで、右に決定された各種の影像を受像機面上に影像として映し出す情報としてROMへ収納するデータ情報の構成及びそのアドレスの決定、本件機械にコインが投入される前におけるデモプレイ時、コインが投入されゲームが開始された場合、並びにゲーム終了という一連の過程における影像の変化の基本的構成に関する解法の発見、すべての影像について、そのそれぞれを構成するための解法の発見、インベーダー、UFO、ミサイルその他受像機面上において変化運動する影像について、その進行方向、速度等についてそれぞれの解法の発見、これら相互間の処理の順序に関する解法の発見(仕事の設計)、右により発見された解法に従つた簡略なフローチャートの作成、フローチャートに基づき記号語によるプログラムの作成(プログラミング)という一連の過程を経て完成したものであること、本件プログラムに使用されている記号語は、アッセンブリ言語と呼ばれているもので、その理解にある程度の専門的知識と経験を必要とするとしても、作成者の表現内容を第三者に伝達する機能を有するものであることが認められる。

右の事実によれば、本件プログラムは、本件ゲームの内容を本件機械の受像機面上に映し出すことを目的とし、その目的達成のために必要な種々の問題を細分化して分析し、そのそれぞれについて解法を発見した上で、その発見された解法に従つて作成されたフローチャートに基づき、専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アッセンブリ言語)によつて、種々の命令及びその他の情報の組合せとして表現されたものであり、当然のことながら右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ、また最終的に完成されたプログラムはその作成者によつて個性的な相違が生じるものであることは明らかであるから、本件プログラムは、その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり、著作権法上保護される著作物に当たると認められる。

三<証拠>によれば、請求の原因3の事実が認められる。

四請求の原因4(一)の事実は当事者間に争いがない。

ところで、<証拠>によれば、本件機械のコンピューター・システムのROMに収納されている本件オブジェクトプログラムは、本件プログラムに用いられている記号語(アッセンブリ言語)を、開発用コンピューター等を用いて、コンピューターが解読できる機械語(本件の場合二個の一六進数を単位として表現される。)に変換した上、これを電気信号の形で本件機械のROMの記憶素子に固定して収納されていること、右記号語から機械語への変換は、右両言語が一対一の対応関係にあるため機械的な置き換えによつて可能であり、そこに何ら別個の著作物たるプログラムを創作する行為は介在しないこと、このROMに電気信号の形で固定して収納されている本件オブジェクトプログラムは、ロムライター等の複製用具を用いて、他のROMに電気信号の形で収納することができるものであり、訴外電商サービスらは、右の手段で本件オブジェクトプログラムを他のゲームマシンのROMに収納したこと、そしてROMは、プログラムを収納すると、一定の操作によつてこれを消去しない限り、プログラムを記憶し続け、右ROM内の情報(プログラム)はコンピューター・システムの電源スイッチが入ると中央演算装置(CPU)によつて読みとられ、CPUが順次その命令を実行し、ゲームマシンの受像機面上に本件ゲームの内容を映し出すものであることが認められる。

右事実によれば、本件オブジェクトプログラムは本件プログラムの複製物に当たり、訴外電商サービスらの本件オブジェクトプログラムを他のROMに収納した行為は、本件プログラムの複製物から更に複製物を作出したことに当たるから著作物である本件プログラムを有形的に再製するものとして複製に該当する。

そして、被告会社が注文を受けた顧客のゲームマシンのコンピューター・システムの基板を取り外して、これを訴外電商サービスらに持ち込み、右基板に取り付けられたROM又は必要に応じて追加したROMに本件オブジェクトプログラムを収納せしめた行為は、右訴外人らを被告会社のいわば手足として使用したもので、被告会社自身が本件プログラムの複製行為をしたものと評価できる。

右収納行為をした当時被告渡辺が被告会社の代表取締役であつたことは当事間に争いがなく、<証拠>によれば、被告渡辺は、昭和五四年八月ころ、原告が当時新製品として発売した本件機械の定価が五〇万円を超えており、ゲームマシンを設置ないし賃貸している業者が既存のゲームマシンを安価に本件機械に改造することを希望していたことから、その改造を計画し前記の複製行為をしたことが認められる。

右事実によれば、被告会社が右複製行為をするにつき、被告会社代表取締役であつた被告渡辺は本件プログラムが原告あるいはその他第三者の作成にかかるものであることを知り、又は少なくとも過失によつてこれを知らなかつたことが認められるから、右複製行為は故意又は過失によつてされたものというべく、被告らは不真正連帯の関係で、右不法行為によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。被告らは、本件プログラムが著作物であり、その複製に原告の許諾が必要であることを当時知らなかつた旨主張するけれども、右は法の不知というべく、被告らの右賠償責任の成立に消長を来たさない。

五<証拠>によれば、被告会社は、昭和五四年九月中には一日一台、五日五台(乙第三号証の書面の同日欄の三段目の二八万円は三台分と認められる。)、六日・九日各一台、一八日二台、二一日・二二日・二五日・二六日・二七日各一台、一〇月中には二日一台、四日二台、五日一台、九日二台、一三日・一七日各一台、一八日二台、二三日・二四日各一台合計二七台のゲームマシンにつき前記複製行為をしたこと、一台当たりの利益額は平均二万円と認められる。<反証判断略>。したがつて右一台当たりの利益二万円に改造台数である二七を乗じた五四万円が本件著作権侵害行為により被告会社が得た利益の額と認められ、原告はこれと同額の損害を被つたものと推定される。

六よつて、被告らは各自、原告に対し、原告の右損害金五四万円及びこれに対する右不法行為の後である昭和五四年一一月一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があり、原告の本訴請求中、右義務の履行を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却する。

(牧野利秋 清水篤 設楽隆一)

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